従業員満足度調査の落とし穴

従業員満足度調査の落とし穴

2019年3月20日、「世界幸福度ランキング」が、国連によって発表されました。
このランキングは、調査会社ギャラップの国際世論調査にある、「自分にとって最良の人生から最悪の人生の間を10段階に分けたとき、いま自分はどこに立っていると感じるか」という質問への回答によって、幸福度をランキングしたものです。

一人当たりGDP、社会的支援、健康寿命、人生の選択の自由度、社会的寛容さ、社会の腐敗度の6つの指標において、自分の今の状態を比較することで、幸福度を判定しています。

この調査での、日本の位置は、156か国中、58位。

あなたは、これを「高い」と感じますか。
それとも「低い」と感じますか。

実は、この調査は、各項目について、「これが満たされていれば、きっと幸福と言えるだろう」という、ある幸福の完成形を想定して、質問が作られているのです。

例えば、日本が92位と、著しく低かった「社会的寛容さ」に対応する質問項目は、「過去1ヶ月の間でチャリティにお金を寄付したか?」だということが、一部ニュースで報道されていました。この質問に違和感を覚えた方も、きっといらっしゃるのではないでしょうか。

寄付をする習慣がある社会は、確かに、ある面では寛容性が高いと言えます。とはいえ、だからといって、「寄付をしない=社会的寛容性が低い」とは、必ずしも断言できません。社会的寛容性は、寄付以外にも、様々な場面に現れるものだからです。

この調査では、社会的な寛容さにつながる様々な行動の中から「寄付をする」という行動に絞って調査をし、寛容度を評価しています。
ということは、「寄付をする」以外の行動で社会的な寛容さを実現している社会は、“寛容性が低い”と評価されることになります。

基準が間違っているわけでは決してないのですが、それが幸福度を評価する全てでもない、ということです。
別の基準を以って実施すれば、きっと、別の結果が出るでしょう。

従業員が、どれだけ就業環境や仕事に満足しているかを問う「従業員満足度調査」や、どれだけ貢献意欲を持って仕事や会社に関わっているかを測る「従業員エンゲージメント調査」も、これと同じです。

社員が、満足や不満を感じていたり、貢献意欲を持っていたり、いなかったりするとき、それがどのような行動に現れるのかは、一人ひとり異なります。
その状況で、「なにを明らかにしたいのか」が曖昧なまま、調査を実施した場合、調査で聞く質問が、曖昧なもの、目的から外れたものになってしまいます。

従業員満足度調査や従業員エンゲージメント調査を実施するときは、自社の人材の状況を確認するとともに、何らかの人事施策へつなげることを想定しているものと思います。

ただ、曖昧な調査からは、曖昧な結果しか得られません。曖昧な結果からは、曖昧な施策しか立案できません。

もし、社員の状況をしっかりつかんで、確実に施策に反映できるような、従業員満足度調査や、従業員エンゲージメント調査を実施したいのであれば、事前に「自社は、従業員とどんな関係を築いていきたいのか」「従業員に、どんな形で満足を感じて欲しいのか」「従業員には、どんな形で貢献してほしいのか」といった、経営上の、人材に関する明確な目標を設定したうえで、調査を実施する必要があります。

世界中の経営者がコーチを付けている理由のひとつが、これです。
こうした場面で、あいまいなままになっている目標やゴールを明確にし、確実に次の行動につなげるために、コーチングが活用されているわけです。

あなたの会社では、従業員満足度調査や、従業員エンゲージメント調査を実施していますか。その結果は、どのようなものでしょうか。
もし、具体的な施策につながるような結果が得られていないのであれば、もしかしたら、もっと明確に、人材に関する目標や、調査のゴールを設定する必要があるのかもしれません。

くろいわひろこ